馬術コラム

クラウス バルケンホール:なぜトレーナーは馬の成長を急ぐのか

有名なドレッサージュトレーナーであり、ドイツのオリンピックメダリストのクラウス・バルケンホールが、“なぜトレーナーは馬の成長を急ぐのか、そして馬が無理な要求をされた時に起きる間違い“ についてとても興味深い意見を述べている記事があったので、取り上げてみました。

なぜトレーナーは馬の成長を急ぐのか

ブリーダーはより良い馬を作ってきてはいるが、市場はもっと強く、健康で、パワフルな馬を要求してきている。運動を始めたばかりの3、4歳に見える馬よりも、大切に調教された8歳に見える馬を売る方が簡単である。無理をすれば、3歳の馬を、調教された肉体的に8歳のように見える馬にすることができる。 あまりにも多くの仔馬がスタリオンのままにされる。良い馬と認められれば、3歳馬と同じくらい高く売れるからである。現在毎年250から300頭の若いスタリオンが出てくるが、その中でわずか40から50頭だけが良い馬と認められる。当歳の馬を去勢し、放牧して自然に育てるという考えを持ったブリーダーは少ない。そうではなく馬房に入れられ、穀物をたくさん与えられ、3歳になる頃には6,7歳に見えるようになる。それでは筋肉は大きく成長するが、それを支える骨格は十分に育たない。外見は成長しているように見えるのだが実際は...。そして運動を始めても、進歩は見られない。競技は今や一年中休みなしに行われるため、それも馬の成長を急がせるプレッシャーになっている。

調教を急ぐことでよくある間違い

鼻革をきつくし過ぎる:馬は舌を出すことで反抗を示す。鼻革をきつくし過ぎると、鼻と項に過度なプレッシャーがかかる。鼻革を非常にきつく締める必要があったとしても、そうすることで馬の基本的な訓練に非常に良くない影響を及ぼすことになる。その結果、トレーニングスケールの第一歩で馬はリラックスできなくなってしまう。

早く専門化し過ぎる:毎日インドアで訓練することは、若馬にとって強いストレスになる。特に訓練の最初の 2 年間は、若馬を専門化しないことがとても大切である。ゆっくり散歩したり、いろいろな種類の運動を織り交ぜて訓練することは、フラットワークで体の強さを作り上げるだけでなく、精神的にも良いことである。小さな自然障害を含めて、フリーや騎乗しての低い障害やキャバレッティも取り入れた方がいい。様々な運動をすることで、馬は精神的に生き生きとし、楽しんで運動するようになる。馬が満足して初めてドレッサージュは芸術的になるのである。

馬具を頻繁にチェックしない:鞍や馬具は、馬の成長による馬体の変化に応じて、また訓練による体力の進化に応じて、きちんと適合しているかどうか定期的にチェックしなければならない。例えば鼻革が低くなり過ぎて、鼻革とハミの間の皮膚が擦れて痛んだりすると、馬は不快でリラックスできなくなる。ハミの問題がないかどうか、馬の口の中や歯を定期的にチェックしなければならない。

運動が長過ぎる:我々のトレーニングのゴールは、馬の心と筋肉を作り上げることである。柔軟性と緊張の緩和には十分な筋肉の発達が必要である。筋肉を強くするためには収縮と緊張の緩和が必要である。筋肉が緩んでいると血液の流れがよくなり、酸素が送り込まれる。筋肉が常に収縮していると、パワーや強さが失われ、実際に小さくなってしまう。特に若馬にとっては、頻繁に休憩時間をとり、手綱を伸ばして自由常歩をすることが必要である。休憩時間はライダーの疲労回復ためではなく、馬の筋肉のストレッチとリラックスのためのものだ。休憩を入れることによって、すっかり新しい馬に生まれ変わるだろう。これが馬の体系的な運動である。

ライダーが神経質な時に乗ること:馬はライダーの気持ちに特に敏感である。ライダーは過度のストレスや時間がない時には乗るべきではない。ライダーの状態が良くないときは、馬に休みを与えるか、ゆっくり散歩するくらいにして、馬場で運動を行ってはいけない。馬はライダーの気持ちの鏡である。

馬を十分に褒めない:馬は強制的ではなく、喜んで演技するべきである。声や愛撫で時々褒めたり手綱を緩めることは、馬が意欲的に興味を持って運動を続けるためにとても大切なことだ。例えば馬が興奮してピアッフェしようとしたら、まずは褒めることである。そこで練習を止めたり、大げさな態度をとってはいけない。ピアッフェをさせたくなければ静かに速歩へと誘導し、決してピアッフェをしようとしたことを叱ってはならない。

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