馬術コラム

Part16 側方運動(速歩)

側方運動(速歩)側方運動とは馬が内方姿勢(姿勢・屈曲)をとりながら、基本的に三蹄跡を行進しながら側方へ進む収縮運動課目です。側方運動には下記の運動課目が含まれます。

  1. 肩を内へ
  2. 腰を内へ
  3. 腰を外へ
  4. ハーフパス(横歩)

これらの側方運動はすべて収縮運動課目であり、A クラスおよび L クラスの馬場運動を正しく理解した馬に対して用いられる課目です。すなわち、前提条件として、直線上での常歩・速歩の行進の際、馬に透過性とセルフキャリッジが理解されていることが必要です。それによって下記の事柄が養われます。

  1. 歩様と姿勢および体勢の改善
  2. 騎手の扶助に対する透過性の向上
  3. 馬体の湾曲の向上および改善
  4. 肩の自由性および軽快性の養成
  5. 負重力と運動バランスの養成
  6.  依倚の軽快性の向上

側方運動を行う順番としては、初めに「肩を内へ」を馬によく理解させておくべきです。「肩を内へ」の運動はあらゆる運動課目の中で特に大切で基本課目でもあります。この運動を馬に正しく理解させるためには、騎手の正しい扶助操作と感覚が必要とされます。

一方、この運動を通して騎手は正しい扶助操作と感覚を養うことができます。なぜなら、「肩を内へ」の運動には正確な馬の内方姿勢とその運動バランスが必要とされ、そのための騎手の正しい扶助操作が必要とされるからです。この運動が正確に実施できれば、その後の「腰を内へ」「腰を外へ」「ハーフパス」が円滑に実施できます。また、「肩を内へ」の運動を行う場合には、当然 A・L クラスの馬場運動がすでに馬に理解されていなければなりません。もちろんレッグイールディングや前肢旋回や後肢旋回などは前段階で人馬ともに理解していなければなりません。これらのことを技術的にも理論的にも騎手が正しく理解していることによって、今後の側方運動が円滑に実施できるようになります。

側方運動は基本的には速歩で行われます。但し、初めて馬に側方運動を理解させるときは、常歩で行うことも可能です。その際、短時間および短距離で行うべきであり、長時問および長距離行うことは馬の前進気勢を無くしたり、または推進力不足になりがちなので注意しましょう。

また、調教が進み正しく速歩で側方運動ができるようになったら、最終的に「ハーフパス」の運動課目は駈歩でも行うことができます。駈歩の「ハーフパス」は馬体に正しい真直性と透過性が備わってから行うべきで、収縮駈歩が正しく行えないうちに始めると、「ハーフパス」の運動において正しい内方姿勢と流暢な運動バランスが得るのが難しくなります。それ故、トレーニングしていく運動課目の順番は大切であり、順序だてて馬に正確な運動を実施していくことがとても大切です。

肩を内へ
肩を内へは馬に内方姿勢をとりながら、蹄跡上を三蹄跡行進する収縮運動課目である。すなわち、後躯は蹄跡上を行進し、前躯は半歩(約 40cm)馬場内に入って三蹄跡を行進する。それによって前方から馬を見た場合、外方後肢一外方前肢(後方に内方後肢)一内方前肢の三肢が見える。すなわち、内方後肢は外方前肢の後方に位置しながらも、外方前肢の方向に踏歩する。

例:右へ肩を内へ(右内方姿勢)/左後肢→左前肢(右後肢)→右前肢

◇「肩を内へ」のポイント◇

  1. 姿勢
  2. 屈曲
  3. 反対姿勢(進行方向に対して)
  4. 三蹄跡(すなわち、内方後肢と外方前肢は一蹄跡上にある)

この運動の目的は下記の事柄の改善と養成にある。

  1. 後躯の負重力と内方後肢の推進力の促進
  2. 弾発の向上
  3. 馬体の湾曲の促進(特に内方脚への理解)
  4. 透過性の向上
  5. 肩の軽快性
  6. 運動バランスの養成
  7. 歩様と姿勢の改善
  8. 脚に対する従順性
  9. ハミ受けの軽快性

また、この運動を行う際の騎手のそれぞれの扶助の役割は下記のようになります。

内方脚
馬の内方後肢の前方への踏み込みの促進と馬体の屈曲の促進と維持(体重は内方にかかる)馬は内方脚に対して屈曲し、そして内方姿勢をとる。

内方手綱
馬の内方姿勢の維持と誘導

外方脚
馬体の屈曲の維持(後躯の外方への逃避を防ぐ)と外方後肢の前方への踏み込みの促進

外方手綱
馬の外方の肩口の支持または抑制

このような扶助操作のもとで馬に「肩を内へ」の運動を行った後、歩度の伸長を行うことはある意味において「肩を内へ」の試金石でもあります。すなわち、正しく馬が「肩を内へ」の運動を理解し実施できれば、その後の歩度の伸長において、より弾発を伴って歩度を伸ばすことができます。また、歩度の伸長を行うことによって、失われつつある推進力を回復することも可能になります。それ故、「肩を内ヘ」またはそれ以外の側方運動においては、必ず歩度の伸長を行うべきです。

そのほか、速歩または駈歩での「巻乗り」運動をより良く行うために「肩を内ヘ」の運動をその準備作業として用いることも効果的です。また、「肩を前へ」という運動がありますが、これは「肩を内へ」の運動を馬に理解させるための準備作業として効果的です。

「肩を前へ」とは、わずかな内方姿勢のもとで馬の内方後肢を両前肢の間に踏み込ませるようにし、外方後肢は外方前肢の方向に踏み込ませるようにします。この際馬体の屈曲は「肩を内へ」よりわずかにします。すなわち、「レッグイールディング」では馬の内方前後肢は外方前後肢の前を交叉するため、馬体の屈曲はありません。「肩を前へ」においては「肩を内ヘ」の運動のための準備作業として騎手は外方脚を後方に保ち、後躯の逃避をさせないよう抑制または支持するようにします。そうすることで外方後肢は外方前肢の方向に踏み込んでいくことができます。一方、内方後肢は両前肢の間に踏み込ませていきます。このように準備作業として「肩を前へ」の運動を行うことによって、より「肩を内へ」の運動に入り易くなります。

具体的な扶助操作《右肩を内への場合(長蹄跡上)》

  1. その前の短蹄跡上において半減却扶助を与えて馬に正しい内方姿勢をとる。
    1. その後深い隅角通過(1/4 円弧)を行いながら、長蹄跡に入る。
    1. 隅角通過後、馬の前躯をわずかに馬場内に入れる。(約半歩)すなわち、馬の四肢が三蹄跡上に位置するようにする。それによって前から見た場合、右前肢一左前肢(後方に右後肢)一左後肢の三肢が見える。
    1. このようにして馬の内方姿勢および馬体の屈曲の維持に注意しながら、内方後肢を外方前肢の方向に踏み込ませる。その際、特に内方の手綱を長蹄跡上において、必要に応じて数回譲ることが効果的である。(もちろん手綱が弛むほどではなく、わずかで十分である)それによって長い距離を馬は特に内方手綱に対して重ってきたり、対抗したりすることなく「肩を内へ」の運動を実施できる。特に、多くの騎手は内方手綱を強く引いたり、上から下へ抑えつけたりするので、この内方手綱の譲りはとても大切である。
    1. その後、隅角前で馬の内方姿勢を全面的に放棄することなく、馬体を真直ぐにして、さらに次への隅角へ向かう。このとき馬体を真直ぐにしようとして内方手綱を弛め、外方手綱を引かないよう注意する。

基本的には「肩を内へ」の運動は長蹄跡上で行います。すなわち、隅角通過後、一旦馬体が真直ぐになり、その後、例えば K 点より「肩を内へ」に入るべく馬に内方姿勢をとり、その体勢で H 点まで進んだ後、再び馬体を一瞬真直ぐにして、次の隅角に向かいます。馬の調教進度または状態に応じてその要求程度を高め、定められた規定の課目の練習をしていきます。特に「肩を内へ」の課目を中央線上で行うことは難しく、よほど人馬共に訓練されていなければ正確に行うことは難しいものです。もちろん、これが正確に実施できたら、人馬ともにかなり感覚が良いといえます。

そのほか、駈歩において後躯が馬場内に入り易い馬は、「肩を前」の体勢で駈歩騎乗することによって馬体の真直性を図ることができます。また、速歩および駈歩での「ハーフパス」においても後躯が先行しやすい馬の場合も、初め「肩を前」の体勢で前進した後、正しい内方姿勢を確認できたら初めてハーフパスに入るようにします。

このように「肩を前」の運動の正しい感覚が騎手に備われば、あらゆる状況に際して応用できます。そうすれば馬の体勢を整えることができ、さらには正しい運動課目が可能になります。

よくある騎手の過失は下記の事柄

  1. 騎手の体重が馬の内方側にない。
  2. 肋の屈折
  3. 内方手綱を引いたり抑えつけたりする。または立髪を越える。
  4. 外方手綱がからむ。
  5. 内方脚が前方に出る。
  6. 外方脚が十分に後方になく、そのために馬の後躯が外へ逃げる。

上記のような騎手の過失によって馬は正しい体勢がなくなる。

  1. 項を曲げる
  2. 外方の肩が屈折する
  3. 後躯の外方への逃避
  4. 歩調の乱れ
  5. 内方姿勢の深すぎまたは浅すぎ(注 1)のようになる。

注 1:内方姿勢の浅すぎより深すぎは軽い過失である。なぜなら、浅すぎは馬体の屈曲の不足に通じるからである。むしろ、調教上においては馬体の屈曲促進のため多少深く姿勢をとることは時には有効です。但し、競技においては三蹄跡を行進させるのが規定となっています。

訓練方法

  1. 巻乗りー肩を内へー巻乗り
  2. 肩を内へー巻乗りー肩を内へこれらの運動課目の組み合わせは巻乗りを利用して馬の内方姿勢をとり易く、一方「肩を内へ」を通じてより正確な巻乗りを行うことができる。
  3. 肩を内へー中間歩度

「後躯の負重力と後肢の活気ある踏み込み(推進力)によって馬の動きに弾発を得ることができ、さらには歩度の伸長を容易に実施できるようになります。

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