馬術コラム

Part20 今後の作業のための前提条件

  1. トレーニングスケール6点の養成
  2. 「A クラスの馬場経路」の実施が可能
  3. 調教開始後、約1年半~2年経る。但し、馬に1.2が正しく理解されていたなら収縮を求める時期を早めることができる
  4. 馬が健康であること

この時期においては「収縮運動課目」の訓練がだんだん取り入れられてきます。その前提条件として、馬の心身をよくほぐすことが必要です。馬が落ち着いて最初のトレーニングスケールの3点(リズム・サプルネス・コンタクト)に重点を置いて準備運動をします。馬が騎手の扶助に従ってリズムよく、リラックスしてハミを受けて運動をするようになったら、最終的に前下方への頭頸の伸展動作を確認するといいでしょう。馬がこのような動作を示さない場合は、馬体の柔軟性が十分ではないといえるでしょう。このような状態で収縮運動を行っても決して馬は騎手の扶助を快く受け入れないだろうし、無理をしてやれば馬はより馬体を硬くして抵抗を示すでしょう。やはり、最初の3点が作業中よく理解さされていることを見極めながら徐々に馬に収縮運動を取り入れていくべきです。また、この時期は収縮運動ばかりではなく、三種の歩法と歩度の改善、半減却扶助および全減却扶助によるスムーズな移行もその目的の中にあります。これらが整ってくれば L クラスの段階に入っていくことが出来ます。

L クラスとは、日馬連制定の経路では「第3課目A/B」にあたります。このクラスには、「反対駈歩」「シンプルチェンジ」,「後肢旋回」、そして三種の歩法内での各種歩度があります。これらの収縮運動課目を実施するためには、これまで以上に馬に真直性と透過性が備わっていることが必要となってきます。

特に「若馬の初期調教の目標」にはやさしい項目から難しい項目へと段階的に示してあるので、それぞれの馬の状態に応じて進めていきます。もしも馬の状態が思わしくない場合は、ー段階後退してもう一度基本事項を確認してやり直していきます。どんなに段階が進んでも、基本は絶えず大切にしていきましょう。難しい運動や課目になればなる程、基本に忠実に乗っていくことが大切です。各種の運動課目の選択と組み合わせが決定的なポイントとなります。

このようにして L クラスの各課目を馬が理解してきたら、「課目」と「課目」をつなげてみます。この時の「課目」と「課目」の移行が特に重要なポイントとなります。移行はそれまでの運動内容が良ければなめらかな移行になりますが、そうでなければ上手く移行出来ません。減却扶助操作の正確性なくしてなめらかな移行は難しいものです。とにかく馬をよく前へ出しながら、ていねいな操作を心がけることです。

多くのミスは身体全体に余分な力が入り過ぎているために起こります。

すなわち、騎手の身体(腰回り)が硬いと、鞍から尻が離れ、鞍をたたくようになってしまいます。そうすると馬は背中を圧迫され、急ぐか(背が敏感な馬)、または遅くなって歩かなくなります(背が弱い馬)。これでは馬はますます苦痛を感じ、馬体を硬くしてしまいます。それをさらにどうにかしようと拍車の使用が多くなります。そうすると、ますます馬は馬体を硬くして抵抗を示し、拍車傷をつけることになってしまいかねません。そのような状態では、騎手は容易に馬を前に推進することが出来なくなってしまいます。

故に、騎手は自分の身体はいつも柔らかく保っているべきで、バランスよく馬の動きについて行くようにしなければなりません。人間が馬上で力を抜くだけで、馬はそれ自体で心地よく感じ、馬体の力を抜いてくれるものです。乗馬技術を学ぶことの第一は、自分自身の力を抜くことです。ましてや馬を調教しようとする者は、当然これらのことは理解しているべきです。決して焦らず自分の気持ちを冷静に保ち、馬の動きに柔軟に対処していきましょう。推進を忘れ、拳(手綱)のみの動作にならないように注意してください。

さて、このクラスで特に確認すべきことは「シンプルチェンジ」の課目です。

この運動は収縮駈歩の質がとても重要です。安定した収縮駈歩によって馬は第一歩から収縮常歩へ移行することが出来、また収縮常歩もよく後躯に負重を受けていることで、一歩から次の収縮駈歩へ速やかに発進することが出来ます。
このための練習方法としては、駈歩から常歩への移行をよくやることです。そして常歩へ移行すると同時に特に内方手綱をすみやかに譲ることです。初めは輪乗りや巻き乗りをしながら、壁または隅角を利用して行います。巻き乗りの場合は、3/4 または1/4の地点で減却するとやり易いでしょう。

そのほか、これらの課目と共に「反対駈歩」の課目も重要なポイントになります。「反対駈歩」も収縮駈歩の質が前提条件で、特に反対駈歩時においては馬のバランスが大切です。正手前から反対手前、そして再び正手前の収縮駈歩への安定した馬の速さとバランスが要求されます。しかし、運動バランスがくずれると、馬は急いだり、遅くなったりし、それが馬体の硬さと共に馬の口の抵抗を引き起こします。それをさらに収めようとして騎手は手綱を引いたり、抑えたりすると正しい3節の駈歩が損なわれ、4節の駈歩または不正駈歩になってしまうのでくれぐれも注意しましょう。

正しい収縮駈歩の養成のためには、前もって活気のある尋常駈歩作業をし、その後徐々に歩度を縮めていきます。すなわち、尋常歩度と収縮歩度の歩度変換をします。この作業は駈歩ばかりではなく、速歩においても同様です。このように段階を踏んで徐々に収縮歩度を求めていくべきです。この際、少なくとも騎手は拳で馬の口を引いたり、抑えたりしているような感覚では正しい収縮駈歩の感覚は得られません。いついかなる場合でも、馬は自分の両方の拳に対して柔らかく抵抗なく入ってくるような感覚を得るベきです。そして、騎手はその馬の口を軽く下から上に感じることです。もちろん、馬によって多少の力の度合いは異なりますが、馬の口を下から上に受けるという感覚です。このような動作は決して手綱を引き上げたり、極端に拳を上に挙げることではありません。このように騎手が感じられる時は、馬が騎手の両拳を抵抗なく受け入れている状態にあるといえます。また、騎手の座りの状態によって、拳に感じる度合いを調整することも騎手の感覚として大切です。また、馬が正しく収縮しているか、後躯でバランスを保っているかどうかを確認するやり方に「ユバシュトライヘン」という動作があります。この動作を運動の間に行って、馬の収縮とセルフキャリッジの確認をします。この動作は馬に収縮運動を要求していく際に必要な動作であり、馬の収縮状態を正しく判断することにつながります。

収縮運動をしようとして、あまり長時間収縮運動を続けることは馬にとっては大きな負担になります。運動の合間に歩度の伸縮運動などを行って、馬の前進気勢と真直性を回復していきます。またクールダウンの時は、頭頸の前下方への伸展運動を行い、馬の緊張感を取り除き、筋肉の弛緩を確認します。このようにして馬体の柔軟と収縮を交互に組み合わせながら馬に収縮を求めていきます。そうすると馬は徐々に収縮体勢での運動課目を理解していくことが出来ます。

また、この時期は減却扶助(ハーフフォルト)が最大のポイントになるので、この動作の確立がとても重要になってきます。減却扶助操作の良し悪しよって馬の収縮と歩度の伸展がより良くなってきます。また、それぞれの運動に応じた頭頸の高さ(起揚)も得られるようになってきます。このような事柄を馬によく理解させることによって、L クラスの馬場経路はより良く実施できるようになります。

課目の練習なり経路の練習は、あくまでも基本的な動作を理解している中で行うべきです。決して無理に行わないことです。また、経路の練習は馬の状態が良い時に、週に1回くらいは試してみるのも良いでしょう。経路を踏むことによって人馬共に基本と馬の状態の確認をすることができます。また、水勒で正しくハミを受けて運動できるようになったら大勒を慣らすことも必要で、馬の騎手の扶助に対する従順性を確認すると良いでしょう。馬が正しいハミ受けを理解していれば、徐々に大勒に慣れていくでしょう。

初めての大勒騎乗時は主に小勒手綱を持ち、大勒手綱は決して強く使わないようにしましょう。その後馬が大勒に慣れ次第、小勒手綱と大勒手綱をバランスよく持つようにします。それでも決して大勒のみの騎乗は慎み、絶えず小勒手綱を主に受けることを心がけましょう。しかし、大勒騎乗は急ぐことはなく、普段は水勒での騎乗が望ましいです。よく調教された馬は水勒騎乗でも高度な域に到達することが出来ます。
但し、大勒での競技参加の場合は、前もって1カ月ほど前から週に1回程度の大勒騎乗を行って、馬に大勒を慣らしておくことは有効です。大勒騎乗は人馬の扶助の正確性と従順性を見極めるものであり、馬がある程度の収縮起揚のもとでの柔らかいハミ受けを理解していることが必要とされます。

そのほか L クラスにおける主な課目には「後肢旋回」がありますが、この運動課目を馬に理解させる場合、初めから小さな旋回を要求せず、初めは直径1m から 2m 位の半円を描くようにして始めます。この時注意することは、両後肢が絶えず前方側方へ踏歩していることです。決して後退させたり、停滞させたりしないことです。これらの多くの原因は推進不足と手綱を引いたり、抑えたりすることにあります。あくまでもこれらの課目を行う場合、馬は騎手の扶助に正しく据えられ、柔らかいコンタクトを保っているべきです。課目中に馬の頭または口を強く抑えながらやっているような状態では、正しい課目の実施は不可能です。大きく前に歩かせるようにしてやりましょう。

馬はいつでも柔らかくハミを受け、馬体を柔らかくしていることが大切です。

また、特に収縮課目または図形騎乗を行う場合には、ある程度の馬体の収縮度とセルフキャリッジが必要です。すなわち、課目を実施できる運動バランスがとても重要になってきます。運動バランスとは馬が後躯でバランスを受けつつ運動できるバランスのことです。このような運動バランスは正しく「訓練段階6点」を理解している馬だけが獲得できるものです。このことは、今後の調教において絶えず必要とされることを騎手は理解しておくべきことです。

ここで訓練段階6点の中の「緊張の緩和」と「透過性」の違いについて説明したいと思います。馬の調教というものは確かに難しいものですが、決して一部の人にしか出来ないものではありません。馬の調教には確かな技術と経験と感覚が必要ですが、その他調教の原理もよく理解しておくことがさらに大切です。決して馬に多くのことを教えるばかりが調教ではありません。第一に、健康で従順な馬が万人の望むところです。すなわち、トレーニングスケールの初めの3点(歩調・緊張の緩和・ハミ受け)を馬が良く理解していることです。そのような馬は心身共にリラックスしていて、騎手の扶助を受け入れる状況にあります。このような状態であれば、馬との信頼関係を構築しやすいことでしょう。馬にはそれぞれ性格や体型、機能の違いがあります。特に、それぞれの馬には異なった感情があるので、その馬の心理をよく読み取り対処していくことが求められます。毎日馬の状態を良く観察しておくことがとても大切です。

具体的には、馬体の柔軟性(緊張の緩和)を図ることが、その時間の第一目標になります。特に若馬の場合はこれが最大の目標です。心身がほぐれてくると、馬は同時にいろいろなことも理解してきます。例えば、方向変換や歩法および歩度の変換も自在になり、それまでの動きにより明確な弾発(テンポ)が生まれてきます。そうするとそれまでの速歩や駈歩が、セルフキャリッジを伴った馬術的な尋常速歩および尋常駈歩の動きを示してきます。これがその後の調教の基本歩度となります。この基本歩度は、たとえグランプリ馬であっても同様に、運動の初めと終わりには必ず尋常歩度で馬の状態を確認します。これを怠ると、馬体の筋肉に偏りや疲労、リズムの狂いを見逃すことになりかねません。それ故、高度な運動の前後には馬体の柔軟と確認を尋常歩度で行うことが大切です。また、馬体の柔軟性とハミ受けの確認のための頭頸の前下方への伸展は、その尋常歩度騎乗と相まってその作業中に含めることを忘れてはなりません。

さて、このようにして馬体の柔軟性が確認されたなら、特に L クラス以上の馬にあっては透過性について注目するべきです。このクラスの馬は軽い収縮運動が要求されます。

これらの収縮運動を実施するためには、単なる馬体の柔軟性では不十分で、さらに前後左右の馬体全体の柔軟性と透過性が必要となってきます。いずれかの部分が硬くなっている、または抵抗感があるということは、馬に騎手の扶助が全面的に伝わっていないということです。すなわち、馬は騎手の扶助に対して透過していないということです。つまり、口←→項←→背←→後躯の部分が十分に連携していないということになります。このような状態では良い収縮運動はできません。それ故、我々は馬体の真直性を得るために、今までの基本的な柔軟運動と併せて、馬の前躯を後躯に真っすぐに据えて各種の図形騎乗または課目を取り入れていきます。そしてさらには「輪乗りの開閉」や「肩を内へ」などの運動を取り入れて、明確な馬体の真直性を求めていきます。真直性が整ってくると、馬は騎手の扶助を全面的に受け入れるようになります。これが馬に理解されてくるに従い、それなりの収縮度と起揚度が馬体に生じ、収縮運動または課目の実施が可能になってきます。このように馬体の柔軟性と透過性の理解は、L クラス以上の調教において必要不可欠なものなので、このことに注目して調教をしていきましょう。

ここまでが「若馬の調教」に関する主な事柄ですが、詳しくは各項目毎に説明しているので良く理解して実行してほしいと思います。この項目においては、主に調教に関する手順と注意点、そして調教するうえにおいてのものの考え方について説明していますので、これらのことを参考にしてあなたも馬の調教を試してみて下さい。

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